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【長編小説】失学園―スクール・ロスト― ①

―スクール・ロスト―

  




目次


九 月 朽木梓のセカイ

十一月 葛葉言乃のセカイ

十 月 亜桜亜美のセカイ

十二月 共感世界

八 月 時藤実散のセカイ

十二月 失われたセカイ



九月 朽木梓(くちきあずさ)のセカイ


       1


「ライ麦畑から落ちたら、人はどこに行くんだろう」

 天羽純は透き通るような声で、そうたずねた。

 朽木梓はすこしたじろいだ。天羽がまっすぐに目を見つめて話したからだ。そんなことをできる人間はなかなかいない。どこかで人を信用しきれないからだ。

 思わず目をそらした。学校の屋上からは、落ちかけた陽がよく見える。空はきれいな茜色に染まっていた。

 八月二十九日。夏の終わり。

 朽木は沈黙を紛らわすために、ポケットから煙草を取り出し、火をつけた。深呼吸をするように、吸って、吐く。

「サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』か」

 天羽はにっこりとほほ笑み、うなずいた。

「日本ではそう呼ばれてる。でも、原題は『The Catcher in the Rye』っていうんだ。ちょっとばかり意味合いがちがってくる」

「『The Catcher in the Rye』……。直訳すると、『ライ麦畑のキャッチャー』か。たしかにちがうな」

「それが主人公の夢なんだ。『ライ麦畑のキャッチャー』になることがね。ライ麦畑には小さな子どたちがたくさんいる。主人公はがけっぷちに立って、落ちそうになる子どもをキャッチするんだ。主人公はそんな存在になりたいと思ってる。それが『ライ麦畑のキャッチャー』さ」

 朽木がその本を読んだのは中学生のときだ。朝読書とかいう、よくわからない時間をつかって読んだ。その物語は朽木の心にすんなり入ってきた。

「作者であるサリンジャーはライ麦畑っていう比喩をもちいて、なにかを表現しようとしたと思うんだ。それは単純に説明できることじゃない。でも、ひとつだけいえることがある。落ちてゆく人がいるなら、そこにはキャッチャーがいなくちゃいけないんだ」

 天羽は真摯な瞳で語った。ぬるい風がさらさらとした髪をなでる。

「でも、僕には気になるんだ。もしも、キャッチャーの手がすべったりして、ライ麦畑から落ちてしまう人がいるとしたら、その人はどうなるんだろう。もしかして、地面にぶつかって死んでしまうのかな。だから、落ちないようにキャッチしなくちゃいけないのかな」

 煙草の灰を落とし、朽木は答えた。

「たぶんなにもないんだ」

 天羽の笑顔がわずかに歪んだ。

「なにも? 地面も?」

「ああ、なにもない」

「じゃあ、ライ麦畑から落ちたら……」

 朽木は煙草を吸いながら考えた。なにもない空間に落ちてゆく。下方には受け止めるべき地もなく、無論、キャッチャーもいない。だとするなら――。

「ただ、落ち続けるだけなんだろうな」

「どこまでも?」

「そう、どこまでも」

 煙草を携帯灰皿にすりつけ、火を消した。ポケットにしまうと、朽木は顔をあげた。

「そろそろ行くわ」

 そのまま動くことができなかった。天羽が泣いていたからだ。華奢な肩をふるわせ、ぽろぽろと涙をこぼしている。

「そんな悲しいこというなよ」

 しぼりだすように天羽は声を出した。朽木には天羽が泣いている意味がわからなかった。ただ、立ち尽くした。紅い陽ざしがふたりを照らし続けた。

 朽木が天羽と言葉をかわしたのは、これが最後だった。

 その翌日、天羽は姿を消した。失踪したのだった。


       2


「天羽君とそんな話をしたんだ。意外だね」

 佐冬真守は汗をぬぐった。九月に入ったが、残暑が厳しかった。青空に浮かぶ太陽は、容赦なく陽光を注ぐ。

「意外って、なにがだよ」

 朽木はふてくされたように聞いた。

「君も本を読むんだなって」

「バカにしてんのかよ。それに名前で呼ぶなっていっただろ」

「ごめんよ。梓君」

 佐冬はふふっと笑った。ふたりはゆっくりと歩んでゆく。校舎から出てそのまま、まっすぐに。

 梓――。自分の名前が好きではなかった。梓なんて女みたいな名前だからだ。佐冬はそれを知ってわざと名前で呼んでくる。からかっているのだ。

 校門の前に着くと、佐冬はつぶやいた。

「でも、天羽君はなんでいなくなっちゃったんだろうね。さっきの話だけど、梓君がいったことが、この学園を出ていくほどの理由になるとは思えないよ」

 八月三十日、天羽の失踪が確認された。その日、天羽は授業に出てこなかった。不審に思った教員は学園をくまなく捜索したが、天羽の姿は見つからなかった。学園を脱走したのだと教員は判断を下した。

 脱走したいと思う気持ちは、朽木にはわからないでもなかった。この閉鎖された学園で過ごせば、誰でもそういった衝動を起こすだろう。

 霞ヶ原学園――。東京都西部の山奥に、さびしくそびえる白い校舎。この学園は特殊な高等学校だ。全寮制であり、休日になっても、学園の外に出ることはできない。学園は高い塀に囲まれており、脱出を阻んでいる。この学園は生徒を閉じ込めているのだ。

 しかし、朽木はしかたがないと思っていた。なぜなら、ここにいる学生たちは極めて特殊な人間だからだ。

 学園の理念は、外界から隔絶されたストレスのない環境をつくり、俺たちのような異常者を守ることだった。逆にいえば、俺たちは外界ではうまく生きていけないのだ。

 いかつい鉄門の下部には錠が取り付けられており、全く動く気配を見せない。柵の隙間からは、山あいにある街に向かって下ってゆく道路が見える。あとは鬱蒼とした森林が風でゆれているだけだ。

 朽木の足元を鼠が横切った。そのまま塀のきわを沿って、ちょろちょろと進んでゆく。やかましい蝉の声を打ち消すように、朽木は声を張った。

「天羽は自分の意志で消えたんじゃない」

 佐冬は熱心に門を検分していた。

「黒板に書かれてた変なメッセージもあるしね」ふと手を止める。「『みんな死ぬ』ってやつ」

 蝉は鳴き続けている。

「正確には黒板にそう書かれていたわけじゃない」

「そうだね。アナグラムっていうんだっけ、ああいうの」

「『ん死なぬみ』――。そう黒板に書いてあった」

 八月のはじめ、学園は夏休みだった。夏休みでも家に帰れるわけではないので、退屈な授業が待ち遠しくなるほどに、暇を持てあましていた。朽木はなんとなく校舎を歩いていた。教室の前ではたと足を止めた。

 黒板いっぱいに白いチョークで文字が書かれていた。

『ん死なぬみ』。意味のわからない言葉だった。綴りの順番を入れ替えれば、『みんな死ぬ』となるのに気づくのに、さほど時間はかからなかった。

 その月の終わりに天羽は姿を消した。

 誰が黒板に言葉を書いたのかは、いまだにわかっていない。

「ひょっとしてあれを書いた人物が、天羽君を消したと思ってるの?」

「それはわからない。ただ、あいつは脱走するようなやつじゃないって思ってるだけだ」

「僕もそう思うけど……」佐冬はようやく検分を終えた。「うん。門には問題がなさそうだね」

 ふたりは塀に沿って歩みはじめた。注意深く、天羽の痕跡がないかどうか確かめながら。その白い塀はぐるりと学園を囲っている。高さは四メートルほどあり、のぼれるような足場もない。

 脱走したとするなら、天羽はどのようにして、塀を乗り越えたのだろうか。乗り越えたとするなら、なんらかの痕跡が残っているはずだ。足跡や塀を超えるために用いた道具など……。

 教員たちが調べ、これといった証拠は見つからなかった。不審に思った朽木は佐冬を誘い、ちょっとした捜査をはじめたのだ。

 無慈悲なまでに白い壁。こちら側とあちら側を隔てる障壁。脱出の痕跡を探すよりも、この学園がいかに閉鎖されているかを思い知らされているようで、精神が疲弊した。それにこの暑さだ。すこし歩いただけで、汗がふき出てくる。

 学園の裏手は、校舎で日陰になっていた。

「休憩しようぜ」

 朽木はそう提案し、ポケットから煙草を取り出した。セブンスター。霞ヶ原学園に入ってからは、この銘柄を吸っている。

「悪いんだ。まだ高一でしょ」

 佐冬はひやかした。

「中学生のときから吸ってる」

「やっぱかっこいいな、梓君は」

 朽木が慣れた手つきで煙草に火をつけると、足元に鼠が寄ってきた。エサを欲しがっているのだ。ものほしそうに、紅い瞳で朽木を見つめている。

 空き缶ぐらいの大きさの黒い鼠。

朽木は煙草の灰を落とした。鼠は灰を食べはじめた。

 その様子を朽木は眺めていた。暗いまなざしだった。

「また鼠にエサをあげてるのか」佐冬は状況を察した。「いつも思ってたけど、鼠って煙草の灰なんか食べるの?」

「ああ。それが主食なんだ」

 もう一匹、鼠が走ってきた。朽木は煙草を吸うと、灰をとんと落とす。二匹の鼠が灰に群がる。あっという間に灰はなくなってしまった。

 しかし、佐冬には認識できないだろう。ただ、落ちている灰が見えているだけだ。

「どうして君には鼠が見えるんだろうね」

 佐冬には鼠が見えていない。鼠が見えるのは朽木だけだ。

「さあな」

 朽木は苦々しい表情で、そう口にした。佐冬はちらと朽木をうかがうと、努めて明るい調子でたずねた。

「どんなときに鼠が見えるの?」

「いつも。そこら中に」

 蝉の声だけが響き渡る。

「そっか……」

 ため息をつくような佐冬の言葉。それは朽木の癪にさわった。

「なんでそんなこと聞くんだよ」

 佐冬をにらみつける。

「いや、もしかしてさ」佐冬は動揺を隠せなかった。「原因がわかれば対処が……」

 朽木は鼻で笑った。

「鼠捕りでも買って来いよ」


 ちょっとした捜査に成果はなかった。朽木たちは塀を学園一周分くまなく調査したが、なんの痕跡も発見できなかった。天羽はどのようにして学園を脱走したのだろうか。そもそも、天羽は本当に学園を脱走したのだろうか。疑問が残った。

 明日は授業だった。


       3


 教師が黒板を文字で埋めてゆく様子を、朽木はぼんやりとながめていた。教室は閑散としている。机は十三しかなかった。しかも、そのひとつ――天羽純の席――は空席である。

 十二人の生徒。それが今のこの学園の全生徒だった。

 クラスはひとつしかない。学年は朽木たち一年だけだ。霞ヶ原学園は新設されたばかりの学校で、朽木たちは最初の生徒だった。

 入学当初、朽木は生徒数の少なさ、そして外界から閉ざされた環境に、戸惑いをおぼえた。入学して五ヵ月たつが、朽木はこの環境にいまだに慣れていない。いつも居心地の悪さをおぼえている。

 ふと目を落とすと、一匹の鼠がちょろちょろと這っていた。どこへいくでもなく、教室を徘徊している。すべてあの鼠のせいだ。朽木は憎々しげに鼠を目で追った。朽木にしか見えない鼠。

 特殊な幻覚だった。どこにいっても、鼠が視界にちらつく。ふつうの人とはちがったセカイに、朽木は生きているのだ。だが、それは朽木だけではなかった。

 この学園の生徒たちすべてが、独特のセカイで生きている。

 外見はふつうだが、住むセカイが異なる。

 そのセカイ観のせいで、通常の学校に進学することが困難だと判断され、ここ霞ヶ原学園に入学したのだ。

 日本全国から極めて特殊なセカイ観をもった生徒たちが集まった。六人の男子と七人の女子。計十三人。生徒の数が少ないのは、それだけ朽木たちが希少な存在であることを示していた。

 俺たちは追放されたんだ、と朽木は思った。ふつうの人間として暮らしていけないから。そして、この監獄のような学園に幽閉されている。

「朽木君、この問題の答えがわかりますか」

 朽木のふいをつき、クラス担任でもある渡辺が名指ししてきた。線の細い、若い男性教師だった。黒板には意味不明な数式が書かれている。

「わかりません」

 ぶっきらぼうに朽木はいった。渡辺は苦笑し、今度はクラスメイトのを指した。

「x=132」

 手元の本から顔もあげずに、無量は答えた。

「正解です」と渡辺はいった。


 食事は食堂でとるのが、この学園の決まりだった。朝昼夜すべてだ。メニューを選ぶことはできない。中学校の給食のように、学校側がメニューを決定していた。健康管理のためだそうだ。ばかばかしい話だ。

 朽木と佐冬はトレーに乗った昼食を機械的に受け取った。病院の食事のような味気のなさそうなメシだった。水差しからグラスに水を注ぎ、長机のうちのひとつにつく。

 佐冬はほくそ笑んだ。

「無量さんに助けられたね」

「まあ、あいつは数学の天才だからな」

 朽木は無量を見やった。髪を中央でわけ、眼鏡をかけた地味な少女。そんな見た目とは裏腹に、ものすごいいきおいで、白飯をかきこんでいる。無量はいつも五分程度で、昼食を完食していた。そして、すぐに教室にもどり、難しい本に取り組むのだ。朽木にはわからない高等数学の本だった。

「無量さんなら、もっといい高校にいけたんじゃないかな」

「無理だろ。数学にしか興味がないんだから」

 いわば、数学のセカイの住人――。食事を終えた無量は、足早に食堂を去っていった。

 すると、が席をたった。置いたままになっていた無量のトレーを持ち、返却口に運ぶ。その顔に表情はない。亜桜はいつも無表情だった。機械的に自分の席にもどり、食事を再開する。

 佐冬は小声でたずねた。

「天羽君の調査の件なんだけど……」

「放課後、天羽の部屋を調べてみよう。なにかわかるかもしれない」

 ふたりは他愛もない会話をしながら、決しておいしくはない昼食を口に運んだ。佐冬はグラスに入った水を飲みほした。すかさず、亜桜がやってきた。

 肩に触れるぐらいのショートカット。身体は細く、顔だちは人形のように端正だった。

「おつぎいたしましょうか」

 手には水差しをもっている。

「亜桜さん。前にもいったけど」佐冬は眉根を寄せた。「君はロボットじゃないんだよ」

 佐冬がいったのは、比喩ではなかった。亜桜は抑揚のない声で応えた。

「いいえ。私はロボットです。人間に奉仕するために作られた機械です」

「だから――」

 佐冬は声を荒げた。朽木はそれを制し、首を横にふった。佐冬はうつむいた。

「水はいらない」と朽木はいった。「トレーも自分たちで片づける」

「承知いたしました」

 亜桜は去っていった。

 自分がロボットだと思っている憐れな少女だった。

 だれに訂正されても、自分が人間であると認識できない。

 亜桜亜美はロボットのセカイに住んでいるのだ。

 そのセカイ観が形成された理由を朽木は知らない。ただ、なにもできない自分に憤りをおぼえた。亜桜は人間に隷属するため、いいように使われてしまっているのだ。

 亜桜は淡々と食事を続けている。

 以前、朽木は亜桜に聞いたことがある。

「仮にロボットだったら、食事は必要ないんじゃないのか?」

 亜桜は解答した。

「私は限りなく人間に似せて造られました。身体のほとんどは人間と同じ構成要素でできています。したがって、人間と同じように食物を摂取する必要があるのです」


       4


 放課後。天羽の捜査の前に、朽木と佐冬は保健室に向かった。ふたりとも保健室に用があったのだった。

「別に毎日いかなくてもいいんじゃないか?」

「僕がいかないと、さびしがるんだよ」

 佐冬は苦笑した。朽木には笑えなかった。沈鬱な思いで、保健室の扉を開いた。

「あら、いらっしゃい」

 のびをしながら、森崎はいった。白衣の似合う女性だった。後ろ髪をきつく結い、黒縁の眼鏡をかけている。回転いすでくるりとこちらに向かいあった。

「佐冬君は妹さんのお見舞いかしら」

 佐冬は頭をかく。

「真奈はおとなしくしてたでしょうか」

 森崎はほほ笑んだ。その笑みがすこし硬いことに、朽木は気づいた。

「おとなしくしてたわ。ご飯もよく食べてるわよ」

「よかった」佐冬は安堵のため息をついた。「それじゃ、妹とすこし話してきますね」

 佐冬は右手にあるドアを開いた。朽木はその中をあやまって見てしまった。怖気が走った。深い後悔から感情を引きもどすために、朽木はいすに腰かけ、煙草に火をつけた。

 ほぼ同じタイミングで、森崎も煙草に火をつける。

 沈黙。

 ドアの向こうからは、佐冬が妹と楽しそうにしゃべる声が聞こえる。佐冬の三つ年下。十二歳の妹。

 さきほど朽木はその部屋をかいま見た。窓辺に設置されたベッド。

ベッドの中にはだれもいなかった。

 朽木と森崎には、佐冬真守以外の声は聞こえてこない。佐冬真奈という名の妹の姿も声も、ふたりは知らなかった。

 佐冬真奈なる人物は実在しない。彼女は佐冬真守の妄想の産物にすぎない。

 それが佐冬真守のセカイ観だった。

「この学園の生徒は二種類のタイプにわかれる」森崎はいった。「気づいている人間と気づけない人間に」

 朽木は前者だった。自分がおかしいということに気づいている。佐冬は後者だ。妹が本当に実在すると思っていて、訂正されても理解できない。自分がおかしいと気づけないのだ。

 だから、佐冬は自分がなぜこの学園に入ることになったか、理解できていない。自分は正常だと思っているからだ。学園側が妹の治療を約束したため、佐冬は納得したようだった。妹は難病にかかっており、病床から動くこともできないそうだ。

 だが、治療など行っていない。できるはずがない。存在しない人間をどうやって治療すればよいのか。森崎は嘘の報告をし、佐冬を納得させていた。

 ドアが開き、佐冬がほがらかな表情を見せる。

「元気でしたよ」佐冬はいった。「窓から見える景色をスケッチブックに書いてて、とてもうまいんです」

 保健室には紫煙だけが漂っていた。

 佐冬はすこし咳き込んだ。

「えっと、僕は失礼しようかな」朽木の肩に手をのせ、佐冬は小声で告げた。「先に行って待ってるね」

 佐冬は保健室から退室した。

 山のように吸い殻がたまった灰皿で、森崎は煙草をすりつぶした。朽木もそうした。もう一本吸おうと思ったが、パックの中は空だった。

「そうだ。煙草をもらいにきたんですよ」

 森崎はうなずき、机の引き出しから取り出した煙草を、朽木に手渡した。

「吸わなきゃやってられないわよね」

 森崎はセブンスターを一本引き抜き、口にくわえた。

 霞ヶ原学園に入学した当初、朽木は授業にでるのを嫌った。教室には頭のおかしい人間がたくさんいる。そんな人間と同じ空間を過ごしたくなかったのだ。

 朽木は保健室に入り浸るようになった。森崎はほかの教員と違い、学園の体制に批判的だったため、朽木と気があった。気分がすぐれないと朽木が訴えると、森崎は愛用しているセブンスターを差し出してくれた。

 煙草は中学のころに吸っていたが、学園に入ると吸うことはできなくなった。学園は閉鎖されているため、どこかで購入することはできない。また、家族から送ってもらうこともできない。荷物は学園の綿密なチェックを通して受け渡されるため、煙草など手に入るはずもなかった。

 だが、教員は別だ。森崎は仕入れた煙草を朽木に分け与え、喫煙を黙認した。学園内にはいたるところに火災報知器が設置されているため、禁煙だったが、森崎は保健室の装置を取り外してしまっていた。それほど煙草に依存しているのだろう。

 一本の煙草を消費すると、朽木は切りだした。

「実は、天羽の失踪について調べてるんですよ」

 森崎は目を丸くした。

「先生なら、なにかご存じなんじゃないですか?」

「なにも知らないわ。あなたたちが知っていること以上は」

 妙に冷たい態度だった。

「昨日、門と塀を調べたんですけど、天羽が脱走したような形跡はどこにもなかった」

「仮に私が脱走するなら、形跡を残さないように脱走するわね」

「それに、黒板に書かれたメッセージのこともある」

「きっとだれかのいたずらよ。偶然、失踪と時期が重なっただけ」

 朽木は押し黙り、森崎の目を見つめた。天羽がそうしたように。

「本当になにも知らないんですね」

 森崎は目をふせた。

「知らないわ。学園側では警察に捜索を依頼している。長く逃げることはできないだろうから、いずれはどこかで見つかるでしょう」


       5


 学校は四階建てで、他の棟は存在しない。白く無機質な校舎が、学園生活のすべてだった。

 一・二階は教室など、一般の学校のような間取りになっている。だが、三階は生徒たちの居住スペースとなっていた。生徒はここで寝泊まりし、学校に通う。といっても、ただ階下に向かうだけだが。四階は教職員の居住スペースになっている。

 森崎によると、教職員もまた学校の敷地から外には出られないそうだ。生徒と生活をともにするためらしい。奇妙な制度だった。外界から隔離されたこの学園は、不可解なルールで満ち溢れている。

 霞ヶ原学園はふつうの学校を装っているにすぎないのかもしれない。かといって、その実態が朽木にわかるはずもなかった。おおかた、俺たちのような狂人を閉じ込める施設といったところだろう。

 仮にそうだとしても、朽木には怒りも悲しみもなかった。ただ諦観だけが支配している。そんな心を、階段を這う鼠がくすぐる。

 リノリウムの白い床を歩んでゆくと、天羽の部屋の前に到着した。ドアにはまだネームプレートがついていた。ドアの向こうでは、佐冬がベッドに腰かけ、窓の外をながめていた。

 床に転がった鞄に目がいく。部屋の中は天羽が失踪したあとも、そのままになっているようだった。いつ帰ってくるかわからないから、あえてそうしているのかもしれない。

 間取りは朽木や佐冬の部屋と同じだった。広さは六畳あり、ベッド、クローゼット、そして机と椅子が設置されている。別室には風呂とトイレを完備。いたれり尽くせりだ。

 天羽の部屋は質素だった。なんの装飾もほどこしていない。壁にはポスターのたぐいは一切貼られておらず、白いままだった。特徴といえば、机の端から端まで並んでいる本だ。両脇をブックエンドで固められ、整然と並んでいる。難しそうな本ばかりだった。どうやら文学の本らしい。

「なにか見つかったか?」

 佐冬は窓の外から視線をもどした。

「失踪をほのめかすようなものは、見つからなかったよ」

「鞄の中は調べたのか」

「うん。教科書とノートだけ。クローゼットの中も調べたけど、特に変わったものはないね」

 朽木は部屋を見渡した。

「学園を脱走する際に、天羽はなにも持って行かなかったんだろうか」

「そうじゃないかな。逃げるんなら身軽なほうがいい。特に必要なものもないしさ。サイフとかスマホなら別だけど、元々持っていないからね」

 サイフやスマホの携帯は校則で禁止されていた。そもそもサイフは使う必要がなかった。生活に必要なあらゆる備品は学園から提供されていたし、飲食物も同様だった。スマートフォンなどの携帯電話は、外界との通信手段となるため、所有を禁じられていた。

 外界から隔離されたストレスのない環境をつくり、生徒を守る。それがこの学園の理念だ。しかし、徹底しすぎている感があった。携帯電話と同じ理由で、パソコンを使うこともできない。さらに、学園には電話すら設置されていない。

 通信手段はひとつだけある。手紙だ。ふざけた話だ。

 だが、天羽の部屋にはその手紙すら見当たらない。引出しの中にあったのは、ありふれた文房具だけだった。家族との交流はなかったのだろうか。

 本の間に、なにかはさまっているかもしれない。朽木が調べはじめると、文学書の間にちょうど本一冊ぶんぐらいのスペースがあることに気づいた。

「本が一冊抜けている」

 佐冬は朽木のうしろからのぞきこんだ。

「本当だ。なんの本だろうね」

「天羽はこの本だけ持って行ったのかもしれない」

「貸しているだけかもよ」

「天羽と親しい人物はいたか?」

「……いないね」

 天羽は孤独だった。だれとも会話せず、ひとりで過ごしていた。もっとも、この学園にはそういった人間が多い。異様なセカイで生きているため、他者との交流が困難なのだ。

 だから、天羽が朽木に話しかけてきたのは意外だった。屋上で話がしたいと、天羽はいった。そして、ライ麦畑についての話をした。あのとき、はじめて天羽と会話らしい会話をしたのかもしれない。

 不思議なやつだった。顔にはいつも儚げな微笑を浮かべ、どこかさびしそうだった。

 朽木は小さく声をあげた。ふいに、並んだ本のタイトルをたしかめはじめる。

「やっぱり……」

 思い出の本がそこには存在しなかった。

「どうしたの?」

「失くなった本がわかった。サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』だよ」


       6


 夕陽が屋上を紅く染めていた。朽木が煙草に火をつけると、鼠が寄ってきた。蠢く黒い塊。灰を食べようと、物欲しそうに朽木を見やる。

「結局、これといった証拠はなしか」

 佐冬はため息をついた。

「まあ、教員が調べたあとだからな。個人的にたしかめたかっただけだよ。つきあわせて悪かったな」

「そんなことないよ」佐冬は慌てて否定した。「単純にちょっとくやしいだけさ」

「くやしい、か。佐冬は天羽と話したことあるのか?」

「あるよ。すこしだけ。僕の妹のことでさ」

 朽木は煙草の煙を吐いた。

「かわいい妹だねっていってくれたんだ。トイレで会ったんだけど、いきなりそんなこといわれて、びっくりしちゃったよ」

「そうか……」

「感じのいいタイプだったよね。勉強もできるみたいだったし。そういえば、天羽君はどうしてこの学園に入ったのかな。別になにも異常は――ごめん」

「気にするなよ」

 朽木はそういい捨てた。たしかに、天羽にはなんの異常も認められなかった。自分でいわなかっただけだろうか。

 同じ場所で生活をしていたにも関わらず、天羽について知らないことが多すぎた。天羽はどんなセカイで生きていたのだろうか。

 だが、もはや知る術は存在しない。天羽は失踪した。この事実は変わらない。

 俺たちは天羽に関心を払わなかった。いなくなったあとで、知ろうとしても限界があるのだ。時はもどせない。

「捜査ごっこはやめにしよう」

 朽木は提案したが、佐冬は食い下がった。

「みんなに聞いてみようよ。天羽君について、なにか知ってるかもしれない」

「有用な情報が得られるとは思えない。そもそも、コミュニケーションが成立するかどうか疑問だ」

「冷たいな、梓君は」

「あれを見てみろよ」

 朽木は煙草で校庭を指した。校庭といっても、無機質なコンリートで固められた地面にすぎなかったが。

 が両腕をひろげて立っていた。深呼吸をするときのようなポーズだ。空を仰いでいるようだったが、目をつむっている。

「あいつは日光浴でもしてるのか? もう夕方なのに」

 佐冬は頭をかいた。

「あれは……UFOを呼んでいるらしいよ」

「UFO?」

 思わず、聞き返した。

「うん……。星川さんは宇宙人の存在を信じているからね。ああやって、定期的にUFOに電波を送信してるんだよ」

「送信っていったって、なにも持ってないじゃないか」

「星川さん、カチューシャつけてるでしょ」

 屋上からでも目につく赤い色のカチューシャ。

「あれで電波を送ってるらしいんだよ」


       7


 朽木は早々に捜査を打ち切ることに決めたが、佐冬はちがうようだった。天羽の部屋を捜査した次の日、みんなに聞き込みをはじめたのだ。

 休み時間、手帳を片手に真剣に話を聞く佐冬がいた。朽木はその様子をながめるだけだった。どこか後ろめたさを感じながら。鼠が机の上に這いのぼってきていた。鼻をくんくんいわせながら、朽木のうしろをちらちらとうかがっている。その視線の先に白戸恵夢(しらとえむ)がいた。

 白戸は肩をふるわせながら、佐冬を観察していた。嗤っているのだ。朽木はいらだちをおぼえたが、その衝動をかみつぶすようにおさえた。

 白戸が嗤っているのは今だけではない。白戸は常に嗤っているのだ。休むことなく。近づけば、くっくっと小さな嗤い声が聞こえるだろう。

 世界のすべてを嗤う――それが、白戸恵夢のセカイだった。

 常に嗤い続けているため、白戸は発話ができない。嗤いを止めることもできない。当然、まわりからは忌み嫌われていた。

 その嗤い声をすこしでも軽減し、表情を隠すために、白戸はマスクをつけていた。小さな顔には似合わない大きなマスク。しかし、マスクは逆効果だった。

 マスクには黒のマジックで大きな三日月が描かれ、その中に乱暴にジグザグの線が引かれている。口元が裂けるほどの嗤いのマーク。

 外見も内面も不気味な存在だった。

 チャイムが鳴り、授業がはじまる。

 白戸は嗤い続ける。

 なにがおもしろいのか、朽木にはわからない。


 すべての授業が終わったあと、佐冬は結果を報告した。

「使えそうな証言はあまりなかったけど、気になる証言があったよ」

 教室には朽木と佐冬しかおらず、静寂が支配していた。朽木は話の続きをうながした。

「八月二十九日の午後六時半ごろ、星川さんが校舎二階の廊下で天羽君と会ったんだ。天羽君はなぜか教室から持ち出した机をかかえていたらしい」

 二十九日の午後六時半だったら、朽木が天羽と話したすぐあとだ。天羽を最後に見たのは自分だと思っていたが、どうやら星川のほうだったらしい。天羽は二十九日の午後六時半から翌朝までの間に姿を消したのだ。

 脱走に机を利用したのだろうか。だが、四メートルの壁を超えるには高さが足りない。

「天羽君は机を教室にもどす途中だった。その様子を見ていた星川さんに、天羽君はこういったんだそうだ。『大切な言葉はしっかりと刻み込まなければならないんだ』って」

 朽木は首をかしげた。

「どういう意味なんだろうな。星川と話した内容はそれだけか?」

「うん。天羽君はそういって、教室に机をもどした。それだけの話なんだけど、なんか気にならない?」

「気になりはするが……。問題は天羽がなんのために机を持ち出したかってとこだろ」

「やっぱり台にするためじゃないかな」

「高いところに手が届かなかったから、机を台として利用した。そして、机は元の場所にもどした。脱走との関連は不明だな。それに、天羽のいったこととも」

「でも、いい言葉だよね」

「『大切な言葉はしっかりと刻み込まなければならないんだ』、か……」

 天羽のいいそうなセリフだった。その様子も目に浮かんできそうだ。天羽のとった行動は不可解だが、きっと意味があるにちがいない。しかし、朽木にその意味を見出すことはできなかった。

 捜査の結果得られたのは断片的な情報で、それらのつながりはわからない。個々の情報はばらばらのままだ。パズルのピースが欠けているような気がして歯がゆかった。

 沈黙に耐えきれなくなったのか、佐冬は自分の考えを吐露した。

「僕らは調べるだけは調べた。結果として、天羽君が自分で脱走した証拠は見つからなかった。単純に消去法でいくとさ――トラックしか残らないんじゃないかな」

「逃走方法だろ? だが、チェックが厳しいんじゃないのか」

 学園で用いる物資を運搬するトラックは毎日のように行き来していた。手紙の配送もこのトラックが行っているらしい。門が開くのはこのときだけだ。開閉は学園の事務員立会いのもとで行われるため、その際の脱出は困難である。

 だが、トラックにうまく忍び込めたとしたら。

 トラックは校舎の前に停車する。荷物の運搬の隙をついて中に隠れるとする。気づかれなければ、そのままトラックに揺られ、学園外に脱出できる。

 だが、運送業者による荷物チェックは当然行われるだろう。さらに、教員たちの捜索の目が、トラックに行き届いていないはずがない。

 朽木は以上の問題点を佐冬に告げた。腕組みをして、佐冬はうなった。

 朽木たちはしばらく黙考したが、外からの声に思考を中断させられた。

 宇宙人を信じる星川に腕をひっぱられ、少女は悲鳴をあげていた。

 少女の名前は葛葉言乃(くずはことの)。長い黒髪を振り乱しながら必死に抵抗しているが、星川の腕力に勝てないらしく、校庭の中央にひきずられてゆく。

 UFOの召喚に巻き込まれているらしい。

 葛葉は他と比べ、症状が軽いほうだった。強力な妄想に憑りつかれているわけではない。ただ、文字という文字が読めない。言葉の知識がないのではなく、書いてある文字が認識できないのだ。失読症という病気らしい。

 そのため、授業中の葛葉はふわふわと視線を漂わせるだけだった。葛葉にとって黒板も教科書もノートもなんの意味もなさないのだ。

「なんだか楽しそうだね」

「そうは見えないけどな」

 葛葉は星川と同じポーズをとるように強いられていた。空を抱くようなポーズ。

「捜査も行き詰まっちゃったしさ。ちょっと息抜きしない?」

「息抜きか、悪くないな。でも、この学園にどんな息抜きがあるんだ?」

「実は……」佐冬はほおを赤らめた。「親に送ってもらったものがあってさ」


 それは、ボールとグローブだった。グローブは朽木の分もあった。佐冬は朽木とキャッチボールをしようと提案したのだ。

 星川たちとは離れた、校庭の端のほうで、朽木たちはキャッチボールをはじめた。朽木はあまり乗り気ではなかったが、佐冬はとても楽しそうだった。

 すこし強めにボールを投げてみる。佐冬も負けじと腕を振るう。

 暮れてゆく日の中で、白いボールが行き交った。

 悪くないな、と朽木は思った。

 天羽の件で空しさを常に感じていた。見つからない証拠。意味のわからない証言。

 ただ、ボールを投げ合うだけなのに、朽木の心は満たされていった。

 朽木は思いっきりボールを投げた。

 佐冬はボールをキャッチした。

 今度は佐冬が思いっきりボールを投げる。

 すこし軌道がそれた。

 朽木は走り、グローブをつけた手をのばす。

 ボールはグローブの先端をかすめ、転がっていってしまった。


       8


 天羽の捜査が手詰まりとなったこともあり、朽木はよく佐冬とキャッチボールをするようになった。

 しかし、そんな平穏な時間は長くは続かなかった。

 九月三十日、朝食の席に佐冬の姿はなかった。ただの寝坊だろうと、朽木は自分にいい聞かせた。だが、佐冬は授業がはじまっても姿を見せなかった。

教員たちが慌ただしく動きはじめた。佐冬を探しているのだ。

 昼休み前、教室で渡辺は告げた。佐冬が失踪したという事実を。

 白戸恵夢の哄笑がこだました。


 朽木は授業を抜け出し、保健室に向かった。廊下に鼠が走りまわっている。狂ったような動きだった。ひどく重い足取り。まるですべてが終わったかのような。

 弱々しい声で森崎にいった。

「先生、佐冬が……」

 森崎はなにもいわずに、朽木を抱きしめた。

 しばらくそうしていると、自分が泣いていることに気づいた。

「佐冬君はいなくなったわけじゃない。どこかに必ずいる。先生たちもがんばって探すから……」

 森崎は朽木をなだめた。

「なんであいつが……。なんで……」

 抱擁がとけるまで、朽木は繰り返した。

 ようやく落ち着くと、おそろしい喪失感が朽木を襲った。くずおれるように、椅子に腰を落とす。

 森崎がライターを差し出す。朽木は煙草をくわえる。

 いくら煙草を吸ってみても、この喪失感だけは満たされそうになかった。

 視界は涙でかすんでいた。手でぬぐう。森崎は心配そうにこちらを見つめている。

 一本の煙草を吸い終わる。

 森崎のデスクの灰皿で、煙草をすり潰す。デスクの上のスケッチブックが目についた。

「もしかして、これ……」

「佐冬君の妹さん――真奈ちゃんのスケッチブックよ。佐冬君がなにか書いてないかと思って、調べようとしていたの」

 朽木はスケッチブックを手に取り、一ページ一ページめくってゆく。

 白いページが続いていた。

 風景画などどこにもない。佐冬真奈なる人物は存在しないのだから、当然だった。

 朽木の手が止まった。

 そのページにはつたない文字でこう書かれていた。

「お兄ちゃんを助けて」

 佐冬真守の筆跡ではなかった。

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