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【長編小説】無限人格少女④

第四章

       1


 両親はまだ職場から帰ってきていなかったので、僕が妙な服を着ているを見られることはなかった。那月はあえて顔を殴らなかったため、鼻血をふいてしまえば、道中で顔を合わせた者に不審に思われることもなかった。制服はもう一着持っているから、明日からはそれを着ればいいだろう。

 シャワーを浴びたら、傷口にしみて激痛が走った。傷薬をつけるのも止めたほうがいいかもしれない。とても痛みに耐えられそうにない。

 風呂場の鏡には、無様な紫色をした僕の姿が映っていた。


 翌日、傷だらけの身体をなんとか学校に運んだ。予想はしていたが、環は休んでいた。きちんと電話まで入れていたらしい。先生に理由をたずねると、インフルエンザに罹ったそうだ。診断書は学校に郵送するという。

 仮病だ。診断書は偽造したのだろう。亜里沙がやりそうなことだ。

 那月は完全に恭子や玲子をシャットアウトし、爆破計画を実行しようとしている。学校に来ているかもしれない、という考えは甘かった。これで那月は、犯罪にたっぷり時間を使うことができる。

 僕はどうすればいいのだろうか。

 思い返してみると、僕はいつも環に巻き込まれていた。僕が関わるというよりも、環のほうが僕に関わってきた。もしくは、僕が関わざるをえないような状況に、環が追い込んだ。つまり、僕は受動的だった。環に突き放された今、何をしていいか途方に暮れるばかりだ。

 恭子といっしょに実行しようとした凶器の処理。あれは失敗に終わった。これから僕がひとりで環の家に乗り込んでも返り討ちに合うだけだろう。身体はぼろぼろだし、そもそも那月には勝てない。

 しかし、最もやっかいなのはルナなのかもしれない。正義でありながら悪でもある。天邪鬼という言葉では表現しきれないほど、複雑な性格をもった人格だった。それでいて、多重人格の謎を解き、綾子を救えるのはルナだけだ。

 授業も聞かずに思考をめぐらしていて、はたと気づいた。知美だ。ルナは知美が多重人格の謎の鍵だと言っていた。知美は知能研究について語り、その専門書を僕に要求したのだった。

 約束を忘れるなんてどうかしてる。

 終業のチャイムが鳴り響いた。考え事に集中しすぎて、時間が飛んだような錯覚に陥った。授業なんてどうでもいい。

 僕は誰よりもはやく教室を出た。


 北武デパートの書店は冨松市で最大だった。八階のフロアをほぼ占有している。文房具ショップが目にとまった。いっしょに遊びに来たのがなつかしい。

『知能研究』についてスマホで調べると、様々な専門書が出てきた。スマホを操作して思ったけれど、別にネットショッピングで買ってもよかった気がする。そのほうが品ぞろえもいいし。

 考えをふり払い、書籍のコーナーに向かう。ネットで注文して配達されるまでには一日はかかる。僕は今日すぐに環に本を届けたいのだ。自分にそう言い聞かせた。

 『知能』というキーワードがタイトルに入っている本を、どんどんカゴにつっこむ。全く知らない学問だったからそうするしかなかった。

 それらしい本を十冊確保したので、レジで会計をすませた。一万円ほど消費したが、しかたない。全ては綾子のためだ。

 いま起きている問題の根本は、綾子が多重人格になったことにある。多重人格が治れば、自動的に那月という人格は消滅する。つまり爆弾事件を防ぐことができる。

 問題の根本を解決すればいいのだ。

 知美が書籍から知識を得れば、ルナはさらに推理を押し進め、多重人格の謎を解明し、綾子を元に戻せるかもしれない。

 しかし、この本で足りるだろうか。本を入れたバッグはかなりの重さだが、不安はぬぐいきれない。そうだ、図書館に行こう。古い本しか置いていないが、古典から学べることもあるはずだ。

 デパートを出るところで女の人とすれ違った。思わず振り返った。

 黒い服を着た女性だった。髪型や雰囲気は違う。けれど――。

 あれは環じゃないか。感じからして亜里沙だろう。

 その姿はすぐに店の奥に消えてしまった。追いかけようと思ったが、環であると確信できなかったので、踏みとどまった。

 環だとしたら、いったいなぜデパートに来たのだろう?


 図書館に寄って本を借りてから、環の家に自転車を走らせた。知能研究に関する本を計二十冊ほど仕入れた。きっと知美も満足するだろう。玄関前にふくれたバッグを置いた。ぼろぼろの身体にはこたえる作業だった。

 チャイムを鳴らしても、ドアをノックして呼んでみても返事はなかった。居留守かもしれない。家の裏口に回ったが、鍵がかけられていて開かなかった。僕は原チャリが駐車されていないことに気付いた。環はバイクに乗って出かけているのだ。

 やはりデパートで見かけたのは環だったのだろうか。僕は環の帰りを待つことにした。

 夕日が落ちるころに環は帰ってきた。

 バイクを停めてヘルメットを外した。亜里沙だった。

「うわ。誠、何してんの」

「本を買ったから渡そうと思って」

「知美が言ってたやつ?」

「そう」

「まじめか」

 僕はバッグからデパートの紙袋を取り出した。図書館の本もいっしょに入れてある。

「二十冊ぐらいはあるから足りるとは思うんだ。デパートと図書館に行ったんだよ。図書館の本は言ってくれれば、僕があとで返すからさ」

「ちょ、渡さなくていいから。重いじゃん。置いといてよ、そこらへんに」

 僕は玄関前に紙袋を置いた。

「亜里沙はどこ行ってたの」

「言うと思う?」

「もしかして北武デパートとか」

 というのも亜里沙は、僕が見かけたそのままの格好をしていた。

 亜里沙は額に手を当てた。

「まずいと思ったんだよね。すれちがったとき。化粧で顔変えてるから、普通は気付かないと思うんだけどねー。やばっ。那月に怒られそう」

「どうしてデパート行ってたの。もしかして同じ本買っちゃった?」

「んなワケねーだろ。下見だよ」

「下見?」

 亜里沙は笑顔を作った。

「嘘。嘘だよーん」後ろを向いてつぶやいた。「那月にしばかれるな、確実に」

 振り返り、怒り気味に言った。

「今日マジ調子悪い。うちはもうだめ。交代しよっと」

 知美は紙袋の中から本を数冊取り出した。

「足りるかな?」と僕はたずねた。

「うん。これぐらいが調度いいと思うよ。ありがとう。傷ついた身体で大変だったろうに」

「いいんだよ。約束だから」

「それではすぐに取りかかることにしよう。何しろ時間がないんだ。那月が支配してしまっているものだから、犯罪以外に時間を使うのを許さないのだよ。せいぜい私が使えるのは、一時間ぐらいだろう。それじゃあ。きちんと養生したまえよ、誠君」

 知美は家に入り鍵をかけてしまった。いろいろと聞きたいことがあったのだが、しかたがない。知美の邪魔をするのも悪いし、帰ることにしよう。

 バイクは表に停めたままだった。周囲の目にさらされるのは好ましくない代物だ。ロックのかかったバイクを持ち上げ、必死に動かした。家の裏までは行けなかったが、家の脇に持っていき茂みの中に埋めるように倒しておいた。

 へとへとになったが田舎の地理は容赦ない。自転車にまたがり坂道を行く。

 しかし、一時間で二十冊の本を読むとなると、三分で一冊の読む計算になるが、大丈夫なのだろうか。


       2


 朝食を食べて家を出たが、学校に行く気がしなかった。

 昨日の夜、ネットサーフィンをしていると、掲示板で気になるコメントを目にした。

「近日、冨松市ヲ爆破シ、市民ヲ皆殺シニスル」

 まだアップされていなかった佐野茜とサラリーマンの画像とともに、投稿されたコメントだった。キリィの仕業に違いない。

 コンビニの爆弾事件があったものの、冨松市そのものを爆破するというのは非現実的であり、殺人鬼をまねた投稿にすぎないと受け止められているようだった。そもそもネットには偽の殺人予告が大量に書き込まれていた。コメントが信じられないのも無理はない。

 非公表の画像が添付されていてもこのデジタル時代だ。既存の写真を加工していると憶測されていた。しかし、本当にみんな信じていないわけではない。信じたくないだけなのだ。冨松市の殺人鬼の爆破予告の噂は、立ち込める暗雲のように直実にネット上に蔓延していた。

 僕は真実を知っている。

 学校へ向かう分岐点をやり過ごす。行先はもちろん環の家だ。


 とりあえずチャイムを鳴らすが反応がないので、裏に回る。家の脇にバイクが倒れたままだったので、本を渡したあとに外出はしていないようだ。裏庭に面した窓はカーテンがかかっていて中をうかがうことはできない。

 いや、すこしだけ隙間があった。僕はのぞいた。

 環がいた。爆弾を組み立てている。

 手際よくドライバーを動かす。周囲には爆弾と思われる金属製の容器が、床をしきつめるように並んでいる。容器の上には煙草の箱ぐらいの装置が取り付けられている。遠隔操作で爆破するためのものだろう。しかし、これだけの材料をどうやって確保したのだろうか……。

 Tシャツにジーンズというラフな格好で異様な作業に没頭している。そのたたずまいを眺めて、ふと思った。あれは僕の知らない人格だ。

 たしか那月は三人の人格を引っ張ったと行っていた。爆弾の材料を盗んだのは亜里沙で、作り方を知っていたのは知美だ。僕の目の前にいる者は、爆弾を組み立てる人格のようだ。

 環は額の汗をぬぐった。ふと窓を見やる。僕と目が合った。

 逃げようとして、思いとどまる。じゃあなぜここに来たんだ。僕は環を助けるために、犯罪をする前に、多重人格を解決するためにここに来たんじゃないのか。

 そんなことを考えているうちに環は窓を開けた。

 あごで中に入るように示す。

 罠ではないかと躊躇したが、結局、中に入った。

 環はキッチンに走りコップに水道水をそそぐと、僕に差し出した。コップから環に視線を移す。無表情で意図が読めない。一応、コップを受け取る。

 テーブルの上にある紙に言葉を書きなぐる。その紙は何かの設計図のようだった。起爆装置だろうか。紙のすみに書き込まれた文字は「江梨」と読めた。

「江梨っていうのが君の名前なのか」

 うなずいて、すこしほおをゆるめる。

「しゃべれないの?」

 首をふる。ではなぜしゃべらないのか。テーブルの上にあった自分のコップを取り、水をがぶがぶと飲む。そんなに水道水が好きなのだろうか。

「江梨が爆弾を組み立てているんだよね」

 うなずき、まわりを示した。すべて作ったということか。

「亜里沙が〝下見〟って言ってたけど、デパートに爆弾を仕掛けるの?」

 江梨は首を縦にふる。下見というのは、爆弾を置く場所をどこにするか検討するために行ったのだ。

「ほかにはどこに仕掛けるの? 街中を爆破するんでしょ」

 意味がわからないというように、江梨は首をかしげた。設置する場所がまだ決まっていないのだろうか。

 江梨はおもむろにスマホを取り出す。画面をこちらに向ける。SNSのページだった。アカウント名は「冨松市殺人事件情報」。

 手渡されたスマホの画面を流してゆく。このアカウントは冨松市の殺人事件についての最新情報のコメントを主に投稿していた。他にも犯人に襲われた時の対処法や、狙われやすいシチュエーションを解説するなど防犯関連のコメントもある。また、プロファイリングもどきのようなことをし、犯人の年齢や職業などを予想したりしている。

 結構な数のフォロワーを獲得していた。僕は友達がいないためSNSはあまり利用しないが、このSNSのユーザーで冨松市に住む者は、こぞって「冨松市殺人事件情報」をフォローするだろうな、と思った。何しろ正体不明の殺人鬼が街をうろついているのだ。情報はできるだけほしいに違いない。

 だが、江梨の真意がわからなかった。このアカウントにどんな意味があるというのか。犯罪対策のための良心的なアカウントとしか思えない。

 スマホに夢中になっているのがいけなかった。

 江梨は背後に回っていた。いや、江梨かどうかはわからない。

 パソコンの電源を引き抜いたように、意識が落ちた。


 首筋に違和感があった。しかし、手で触れることはかなわない。手首を後ろ手に拘束されているからだ。足も拘束されている。ロープできつく縛られていて、血液が全身に行き届いていない気がした。

 意識を失う前、一瞬身体がびりっとした。またスタンガンでやられたのだ。違和感は電流でできた火傷によるものだろう。

 無機質なコンクリートがいやに冷たい。また、あの地下室だ。様々な惨劇が繰り広げられた、あの地下室。

 そして、また新たな惨劇が起ころうとしている。

 うつぶせの身体を左右にゆらしていきおいをつけ、身体を横にした。

 椅子に拘束された少年がよく見えた。

 小学四年生ぐらいだ。サラリーマン殺害のときと同じようにして、椅子に縛りつけられている。口にはガムテープを貼られているが、意識を失ったままだ。

 環は姿を現さない。いったいこれから何をしようというのか。

 僕がさわぎたてないとわかっているのか、口にはガムテープが貼られていなかった。僕は環を呼んだ。返事はない。声が届いているかもあやしい。そもそも、まるで物音が聞こえないので、環は外出している可能性が高い。

 もがいてみたがロープが外れる気配はない。むしろ、さらに結びが強くなったような気さえする。そうしているうちに、少年が目を覚ました。

 現況を把握すると、がむしゃらに身体を動かしながら、声にならない声を叫びはじめた。恐怖の悲鳴なのか助けを呼んでいるのか、テープで口がふさがれてしまっているので、わからない。

「落ち着くんだ。大丈夫だから」

 とりあえず冷静になるように言葉をかける。少年はしばらくパニックになっていたが、落ち着きを取り戻し、僕の言葉に耳をかたむけはじめた。

「いいかい。叫んだって助けは来ない。ここは地下室で隣家は遠い。どうせするんなら、このロープを外す方法を考えるんだ」

 気休めにすぎなかった。拘束は固く、解けそうもない。環を待って、少年を開放するように交渉するしかないだろう。

 少年は目の動きで部屋の隅を示した。

 ランドセルが転がっていた。

 首で僕に行けとうながす。

 僕は芋虫のように身体を動かし、ランドセルにたどりつく。ロックは外れているようなので、口を器用に使いカバーを開いた。少年のほうに目をやると、うんうんとうなずいていた。鞄の中身に用があるらしい。

 ランドセルの中に首をつっこみ、入っているものをくわえ、外に出してゆく。

 教科書、ノート、筆箱――。

 そこで少年がしきりにうめいた。

 筆箱は学校でよく流行ったものだった。やたらと機能がついたプラスチック製の大きな筆箱だ。僕はやはり口で開く。

 鉛筆・消しゴムのほかにカッターが入っていた。――なるほど。

 少年の目から喜びがうかがえた。僕はうなずいてみせる。

 あおむけに寝るようにして、手をカッターの上に乗せる。なんとかつかむと、体勢をうつぶせに変える。

 刃を出して、手首に巻かれたロープを切りはじめた。指でカッターを動かすしかないので、わずかな力しか入らない。のこぎりの要領でロープを切る。

 少年は期待のまなざしを向けているが、事態はそんなに単純じゃない。ロープを切ったところで、地下室の鍵がかかっていたらどうしようもない。電話をしようにも、ここは電波が通じない。そして、ここに来た人間は環と僕を除いて、みんな殺されている。

 それでも、何もしないわけにはいかなかった。

 手首のロープの切断に成功した。両手を自由に動かせるようになったので、足のロープは簡単に切れた。

 立ち上がり、身体を動かしてみる。逆説的に自分が自由であることを実感した。

 僕は少年の口に貼られたガムテープをはがした。

「ありがとう……ございます」

「いや、君のおかげだよ。今、手のロープを切るからね」

 ひじかけに拘束された右手を解放しようと、カッターを用いる。

「きっとお父さんが助けに来てくれます。お父さんは警察だから、絶対にこんなこと許さない」

 思わず手が止まった。

「君のお父さんは今現在、警察をやっている人なの?」

「そうです。しかも署長なんですよ。冨松市の」

 頭が真っ白になった。やばいことはわかった。これまでとは比べものにならないくらい、やばいことが起きようとしている。現職の警察署長の息子を拉致監禁している。これが偶然のはずがない。

「どうしたんですか。ロープを切ってくれないんですか」

「ごめん」作業を再開した。ロープを切ったが、がむしゃらに巻かれているため、ほどくのに時間がかかる。

「ここ、どこなんですかね」

「わからない。突然おそわれて閉じ込められたんだ」

 共犯者扱いされると思い、とっさに嘘をついた。

「僕もなんです。学校の放課後に、お母さんから電話がかかってきて、冨松高校のそばの公園に呼ばれました」

 冨松高校は僕の通っている学校だから、環の家もすぐ近くだ。

「だけど途中でおねえさんに呼び止められて、道を聞かれたんです。道を教えていると突然気を失いました。体中に電流が走った感じです。でもお母さんはなんで僕を呼んだんだろうな……」

「それはうちが言ったからだよ」

 振り返ると、いつのまにか亜里沙が地下室に入ってきていた。

 手にはコンビニのビニール袋を提げている。

「誠もやるじゃん。よくロープ切れたね」

 亜里沙はおもしろそうに言った。逃げ出そうとしたことを気にしていないのだろうか。

 少年は震える声で言った。

「この人です。この人が道を聞いてきた人だ……」

 亜里沙はひとつ咳払いした。

「冨松高校のそばに公園があるでしょ。すぐに来て。お母さん待ってるから」

 環は人格が変わると、声色がすこし変わる。だが、それとは比較にならない声の変化だった。まるで別人の声だ。

「お母さんの、声だ……」

 少年の驚きようからしても、本当に母親の声を再現しているらしい。

 亜里沙がもう一度咳払いすると、元の声に戻った。

「だってうちは怪盗だよ。声変えるぐらい楽勝だよ。声帯をうまくコントロールすればいいだけだもん」

「でも、母親の声なんてどうやって調べたんだよ」

 僕は疑問を差し挟んだ。

「電話したらお母さんが出るに決まってんじゃん。それ聞いてマネしたんだ。ちなみに電話番号はキリィが調べたんだけどね。得意のハッキングで警察署のネットに入り込んだんだ。もちろん住所もわかっちゃうよね。息子さんの名前も学校もさ」

 ビニール袋を下すと、ペットボトルのお茶を取り出し、ぐびぐびと飲んだ。

「しっかし疲れるよね。ほとんど寝てないしさ」

 少年はそんな亜里沙の様子を見て、ぼう然としていた。飄々とした態度からは犯罪者の凶悪さが感じられない。しかも女の子だ。理解の範疇を超えているのは無理もなかった。

「警察署長の息子をなぜ狙ったんだ?」

「さすがに警察相手だと負けちゃうじゃん。子供相手なら――」

「違う。警察関係者を狙った理由だ」

「誠もわかってんでしょ? 警察に邪魔させないためだよ。ネットに予告したじゃん」

「冨松市の爆破予告か。やっぱりはじめる気なんだな」

「そだよ。マジでおもしろくなってきたっしょ。あ、誠もさ、お茶飲みなよ。あと、少年も。そのために、わざわざコンビニ行って買って来たんだからさ」

 のどはからからだった。おそらく半日ぐらいは飲まず食わずだ。二本のペットボトルを受け取る。亜里沙も飲んでいたから危険はないだろう。少年の右手の拘束は解いていたので、ペットボトルを手渡した。

 少年はがくがくと手を震わせながら、飲み物を口にした。

 僕もお茶を飲む。かわきがすこしだけ癒された。

「一石二鳥だよね」

 亜里沙はにやりと笑った。

「何が?」

「水分補給と眠らせること」

 僕はペットボトルを投げ捨てた。

「もちろん、うちのには入ってないよ。先入観って怖いよね」

 亜里沙は自分の持ったペットボトルを揺らしながら言った。

 強烈な睡魔が襲ってくる。抗おうと思ってもまぶたは落ちてゆく

「爆弾用の薬品盗むときに、ついでに睡眠薬も盗んどいてよかったよ。ゆっくり眠って休んでね。明日はとっても大変なことが起きると思うからさ。あははっ」

 亜里沙の耳障りな笑い声が、意識を失うまで響き続けた。


       3


「あ、ああ、あたしがなんでこんなことまで。あ、亜里沙がやればいいのに」

「うち配線とかわかんないもん。いーじゃん、キリィの最後の仕事でしょ」

「こ、こういう肉体労働は、あたしのような、頭脳労働者には向かないのです」

「たまには汗かくのもいいって。もう一息だよ」

「う、上から目線に腹が立つ!」

 キリィのかん高い声で、目を覚ました。頭がぼうっとして、吐き気がした。身体に力が入らない。といっても、僕はまたも拘束されているようだったので、身体を動かすことはできなかった。

 僕は地下室の端――地上へのドアの近くに寝転がされていた。

 地下室の様子は変わっていた。

 少年の右手は縛りなおされ、口にも再度ガムテープが貼られていた。少年はまだ眠りからさめていないようで、椅子にうなだれるようにして眠っている。

 そして、少年の拘束されている椅子の脇には爆弾が置かれていた。

 バスケットボール大の金属製の容器。

 爆弾からはコードが伸びており、ノートパソコンにつながっている。ノートパソコンは、少年から二メートルほど離れた位置にある、背のない椅子の上に置かれている。パソコンは少年に背を向けた形で設置されており、上部にはWebカメラが取り付けられてある。

 Webカメラは少年を捉えている。

 キリィはパソコン画面と少年を見比べながら、しきりにノートパソコンの位置を動かしたり、Webカメラの向きをいじっている。こちらからパソコン画面がうかがえる。少年の映像が表示されている。うまくフレームに入るように調整しているようだ。作業に集中しすぎていて、僕が目覚めたことに気付いていない。

 キリィの服装はTシャツにジーンズと変わらないが、上を着替えたようだった。黒いTシャツを着ている。一日が経過したということか。

 パソコンからはコードがさらに二本伸びていた。一本は地下室の電源に刺さっている。もう一本は僕の脇を通り、地下室の扉の隙間を抜けている。おそらくLANケーブルだ。上の階からネット回線を引っ張っているのだ。

「うん、うまく映ってる。完璧だよ、キリィちゃん」

 キリィは微妙なフレーム調整を終えた。

 しかし、何のために――。

 以前、サラリーマン殺害の様子をビデオカメラで撮影した。単に映像を撮影するなら、それで事足りるはずだ。でも、今回は違う。

「よぉし、汗臭い肉体労働をよく切り抜けた、キリィちゃん。あとはプログラムがうまく作動するのを祈るだけ。あぁ、自分の頭を撫でてあげたい。実際になでよう。よしよしよし!」

「キリィ、何をやっているんだ?」

 口にガムテープを貼られていないのが幸いだった。身体を拘束されてはいるが、しゃべるチャンスは与えられているようだ。

 キリィは自分をなでていた手を止めた。

「ち、ちが、違います。こ、これは頭が、かゆかっただけで。遺伝したやつです。遺伝性のかゆみです。だ、だから、悪いのはDNAであって――」

「そっちじゃないよ。自分をほめることは否定しないよ。何の作業をしているのかって質問だよ」

「そっちかい! も一度強めに、そっちかい!」

 キリィは自分の中で盛り上がりはじまって、収拾がつかなくなっていた。

 ふと人格が切り替わった。亜里沙だった。

「よく寝たね。十数時間は寝てたんじゃない?」

「そんなに時間がたってるのか?」

「教えたげるよ。今は二十五日土曜日の午前十一時半。誠は昨日の夕方ぐらいから、ずっと寝てたんだよ」

「おまえのせいだろ。睡眠薬なんか入れるから」

 亜里沙は顔の前で手を合わせた。

「ごめん。あれ薬入れすぎたみたい。ほとんど致死量だった。すぐに眠るかどうか不安でさ、いっぱい入れちゃったんだよね。マジごめん」

「謝るんだったら、もうすこしすまなそうに謝ってくれよ」

 だから頭痛がして、身体が異常なまでに重いのか。睡眠時間が長すぎるのも、薬が多かったせいだろう。

 亜里沙は少年の額を軽く叩き、「はやく起きなさい」と少年の母親の声で言った。少年が目覚める様子はなく、亜里沙は首筋に指をあて、脈を測っていた。

「生きてるわ」亜里沙は声を戻した。「子どもなのに誠と同じ量、処方しちゃったからさ。やばいかなって思ったけど、眠りが深いだけみたい」

 にこやかに残酷なことを言う。きっと亜里沙は他人のことなど、どうだっていいのだろう。その点は那月と共通している。

「いったいこの部屋で何をしようっていうんだ」

 僕は亜里沙に詰問した。

 亜里沙は画面をのぞき、キーボードをカタカタ押しながら答えた。

「ビデオ通話だよ」

「ビデオ通話? 誰と?」

 肩越しに言う。

「この子のお父さん」

 肉体は死んだように鈍重だったが、怖気は走った。

 警察署長にビデオ通話。署長の子供のそばに設置された爆弾。爆弾からパソコンに伸びたケーブル。

「警察を脅迫するんだってさ。計画邪魔したら息子を爆弾で吹っ飛ばすっつって。署長の息子が人質に取られてたら、さすがに警察も動きづらいじゃん。言っとくけど、那月の考えだからね」

 パソコンから離れ、亜里沙は言った。少年が目を覚ましていないのが、せめてもの救いだ。

 亜里沙は壁にもたれながらスマホをいじっていた。ビデオ通話のセッティングは完了している。ということは、冨松市爆破計画はもうすぐはじまるということだろうか。では、大量に作った爆弾はもうすでに仕掛けたのか。

 でも、あれは女の子ひとりが運べる量じゃない。原チャリを使っても、ぜいぜい二個ぐらいしか運べないだろう。

 僕は疑問を口にした。亜里沙はスマホから目を離さずに答えた。どうやらゲームをしているらしい。

「そもそもだよ。爆弾作る材料を盗んで、どうやって運んだのかって話。車しかないよね」

 環の家には車はない。交通事故で潰れたからだ。

「車を盗んだってことか」

「違うよ。取引だよ。お金をちょっとちらつかせたら、ヒマをもてあましたフリーター男が、運転して荷物の持ち運びまでしてくれるっていうからさ」

「金で人をつって利用したんだな」

「そんな悪い言い方しないでよ。知り合ったのは三日前。誠が那月に追い出されたあとね。一昨日の未明に爆弾の材料をうちが盗んで、フリーター男が運搬。家の裏庭まで運んでもらったんだ。

 あいつバカみたいだから、爆弾作るとは思ってなかったみたい。ま、材料だから製法知ってないと、爆弾だってわかんないんだけどさ。昼にはうちがデパートの下見に行ったんだけど、まさか誠とはち合わせるとはね」

「じゃあ作った爆弾を運ぶのも、その男を利用したのか」

「そだよ。材料運んでもらったあと、移動して待機してもらったんだ。さすがに家に、あるはずのない車が停まってたら怪しまれるからさ。近くの公園の駐車場で待っててもらったんだ。もちろん、公園からは出ないようにって釘をさしてさ。で、昨日の深夜にここに来てもらって、爆弾積んで現場に直行」

「よくおとなしく待ってたな、その男は」

「お金がほしかったんじゃん? おとなしく待っててくれたら、報酬を倍にするって言ったからね。一応、キリィがスマホのログを監視できるようにアプリ入れといたから、変な行動起こしたら、すぐに爆殺しちゃうんだけどさ」

「車に爆弾を仕掛けたのか」

「ばれないように座席の下にね。マジで待っててくれたからよかったけどさ。爆弾積んで現場に設置するのは手こずったけどね。もう勘付いてたからさ。爆弾だってことも。でもそこは那月がおどして強引にやらせるよね。やっぱ那月ちゃんはすごいわ」

「そのフリーターの男性はどうなったんだよ。まさか殺したんじゃ……」

「那月が殺しちゃった。爆弾設置したら用済みだからね。結構イケメンだったんだけどな」

 亜里沙にとっては、今スマホでやっているゲームと現実の価値は大差ないのかもしれない。

「設置したあと車の中ですぐに殺しちゃってさ。運転どうすんのって話になって、うちが適当に運転しちゃったよ。ほら、那月って機械音痴じゃん。運転できないんだもん。事故んなくてよかったよ。計画おしゃかだからね」

「車はどこにやったんだよ。座席の下に仕掛けた爆弾はそのままなんじゃないだろうな」

 亜里沙はようやく目線をあげた。顔を歪ませるように笑う。

「誠、勘いいじゃん」

 周囲に聞こえるんじゃないかと思うほどに、心臓が高鳴る。

「どういう意味だよ」

「すぐにわかるよ。もうすぐ時間だからさ」

「時間って何だよ。何をするつもりなんだよ」

「まだ余裕あるから知美に代わるね。話したいことあるんだってさ」

「ちょっと待っ――」

「本を読ませてもらったよ。非常に興味深かったね」

 知美は静かに語りはじめた。

「ルナの推理は完遂しているが、根拠がなかった。そこを私が補填できるようだ。知能研究に関する、禁忌の実験を知ったよ」

「そんなことはどうでもいいよ。時間がないんじゃないのか」

「失礼な。謎を考察することは、何にもまして優先されるべきじゃないかね。いやしかし、時間がないことも事実だ。ゆえに、『一分間で無限のやりとりをする方法』を教えよう」

「一分間で無限……? 何言ってんだよ」

「まあ、聞きたまえよ。アナログ時計の秒針を想像してほしい。秒針を時計の円周の半分進める――つまり三十秒で我々はひとつのやりとりをする。次に秒針を時計の残りの円周の半分進める――つまり十五秒でひとつのやりとりをする。時計の秒針は四十五秒の位置を指しており、円周の残りの半分を進めてひとつのやりとりをするという操作をいくら繰り返しても、秒針は一周することはない。一分に限りなく近づいていくが、一分は経過しない。ゆえに無限のやりとりをすることができる」

「ただの詭弁だろ」

「その通り。無限のパラドクスの一種さ。パラドクスというのはだね――」

「もういいよ」僕は声を荒げた。「それが話したいことなのかよ」

「いや、話がそれたね。私の悪い癖だ。どうやらルナが話したがっているようだ。代わるよ」

 ルナは有頂天だった。早口でまくしたてる。

「知美のおかげで、完全な推理が完成した。謎を深く考察したおかげで、記憶の深層にたどり着けた。事件は解決だ。真犯人もわかったよ」

 事件は解決? 真犯人? 意味がわからない。

「まったく那月のやつは。僕の助手にひどい仕打ちをしてくれるじゃないか」ルナはポケットから取り出したナイフで、僕を拘束するロープを切った。「これで自由だね」

 久々に地に立った。睡眠薬のせいで、まだ頭がくらくらする。

「もう時間がないな。那月に代わらなければ――」

「ちょっと待ってくれよ。謎が解決したのなら、綾子は救われるってことだろ」

「そりゃ救われるさ。何も問題はないよ」

「じゃあ爆破事件が起こる前に、謎を明らかにして、綾子を救えばいい。このままじゃ大勢の人間が死ぬことになる」

 ルナは人差し指をたてた。

「解決篇は事件の最後と決まってるだろ?」

 全身の力が抜けた。

「君は助手なんだから、最後は必ず僕のそばにいてくれたまえよ。そのとき推理を披露しよう。それじゃあ」

 僕は思わず手をのばした。

 引き留められるわけではないと、わかっているにも関わらず。

 那月はスマホを確認した。

「時間だわ」

 轟音が鳴り響いた。


       4


 地下室のドアを振り返る。

 ケーブルを通すために、わずかにドアが開いていたので、音が聞こえたようだ。

 爆発音だった。しかも、近い。

「フリーター男の乗っている車の爆弾を遠隔操作で爆破したのよ。正午になったら爆破するようにキリィが仕込んだの。ちなみに車は学校のそばに放置してたから、生徒も巻き添えくらったかもね」

 那月はノートパソコンに近づき、タッチパッドを操作しはじめた。

「どうしてこんなことするんだよ。綾子は救われるのに」

「どうしてって? それは私が殺人鬼だからよ」

 不敵な笑みでそう言うと、タッチパッドをとんと押した。

 パソコンからビデオ通話のコール音が鳴り響く。拘束された少年はいまだに目を覚まさない。

 那月は素早い動作で僕に近寄ると、唇にナイフの刃を触れさせた。

 黙っていろ、という意味だ。

 その姿勢のまま亜里沙に人格を切り代えた。

 亜里沙は咳払いしながら声を出し、のどをチューニングしている。

 ビデオ通話がつながった。

 通話相手が画面に映る。警察官の制服を着た初老の男だった。

「私だ。圭太、大丈夫か」

 動揺している。こちらに向かってしゃべっているように見えるが、男の目に映るのは拘束された息子の姿だ。僕らの姿は見えていない。

「冨松市警察署長、海江田壮一さんで間違いありませんね」

 ボイスチェンジャーを使ったかのように、亜里沙の声は高音に変化していた。

「そうだ……。息子を解放しろ。目的は何だ」

「ゲーム開始の合図は聞こえたかな」

「冨松高校の不審車が爆破された件を言っているのか。まさかおまえが……」

「今日午後一時に冨松市を爆破する」

 亜里沙は宣言した。殺戮はもうはじまってしまったのだ。

「警察は余計な真似をするな。さもないと、あんたの息子を殺害する。息子の足元に爆弾が転がってるだろ」

「おまえの脅迫には屈しないぞ。警察をなめるなよ」

「そっちが通話を切った場合も爆弾を爆発させる。警察が私の邪魔をしなければ、あんたの息子を解放しよう。かわいい息子の命をとるか、顔も知らない市民の命をとるか、判断はあんたに任せるよ。健闘を祈る」

「待つんだ。そっちの要求を聞かせてもら――」

 亜里沙は僕の手を引き、地下室を出た。

 人格は那月に戻り、僕のみぞおちに拳を叩きこんだ。

 たまらずむせていると、那月は落ち着いた様子で言った。

「冨松駅近くにサンライズマンションという建物がある。私はその屋上から、冨松市の終末の光景を眺めることにするわ。もしあなたが本当に生き腐れを卒業したいのなら、私の元に来なさい。これが最後のチャンスよ」

 声が出ず、追いかけるにも身体がついていかない。僕には那月の後ろ姿を見送ることしかできなかった。那月は廊下に置いてあったリュックを手にして、裏口を出た。その背中はどこか寂しそうだった。

 僕はすこし悲しくなった。

 そもそも僕は那月についていくと誓ったのだ。あの地下室で。

 ひどく矛盾した感情を抱きながら、僕はバイクが走ってゆくエンジン音を聞いた。


 自転車のカゴに入れっぱなしにしていたバッグから、スマホを抜いて時刻を確認した。

 十二時五分。あと五十五分で街は爆破される。

 薬を過剰摂取したせいで身体の動きが鈍いが、全体重をかけるようにしてペダルを踏み込んだ。

 駅に急がなくてはならない。約二十分ほどの道のりだ。

 スマホには親からの着信履歴があったが今は無視だ。両親とも土曜日は市外に仕事に出ているため、心配はない。

 大通りに出ると、自転車に乗った中学生ぐらいの男の子たちが僕を追い越して行った。行先は駅のほうだ。

 自転車をこいでゆくと、駅に向かう人々をたくさん見かけた。信号待ちの車が渋滞をなしている。クラクションがけたたましく鳴り響く。

 冨松市爆破が午後一時に行われることは市民に周知されているのだろうか。スマホを取り出す。ニュースサイトのトップに情報があった。

 本日正午に冨松市役所、警察、消防、冨松市内の学校などのウェブサイトが不正プログラムによって改ざんされた。

 ページのタイトルが「号砲ハ鳴ッタ。本日午後一時、冨松市ヲ爆破シ、市民ヲ皆殺シニスル」と書き換えられ、冨松市の殺人鬼を名乗る人物からの犯行声明だと考えられる。

 キリィの仕業だ。ネットの情報をいち早く手に入れたものが駅に向かっているのだ。電車に乗れば他の街に逃げられる。

 防災放送が流れはじめた。午後一時に冨松市を爆破すると予告があったという知らせだ。落ち着いて安全な施設に逃げるように促している。しかし、安全な場所などどこにあるというのか。

 冨松市を爆破するという宣言だけで、どこに爆弾を設置したかなんて明言していない。

 駅に向かう車の列を見て、僕は違和感を覚えた。車があるなら電車に乗る必要なんてない。そのまま国道に乗って市街に逃げればいい。

 何かがおかしい。

 僕はまた自転車の集団に追い抜かれた。冨松市にある私立高校の制服を着ている。

 思い切って声をかけた。

「逃げようとしてるんだろ。どこに行くつもりなの」

 ひとりが自転車を停め、後ろを振り返った。

「北武デパートだよ。あそこが一番安全らしいぜ」

 仲間が待たずに先に行ってしまったので、高校生は慌てて自転車を走らせた。

 逆だ。デパートには確実に爆弾が仕掛けられている。しかし僕が注意する前に、高校生たちは遠くに去ってしまった。

 もしかして、みんな駅に向かっているわけじゃなく、北武デパートに向かっているのか。北武デパートは駅からすぐそばの位置だから方向は同じだ。

 不安になった僕は、信号待ちで渋滞になっている車の窓ガラスを叩き、怒られるのを承知で行先を強引に聞いた。

 市街に逃げようとして渋滞につかまってしまった人たちもいたが、ほとんどは北武デパートに逃げようとしていた。デパートは危険だと忠告したのだが、そこが安全だとみんなが言っているらしい。

 〝みんな〟って誰だ?

 なぜ市街に逃げないのかとたずねると、市街に向かう橋や道路に爆弾が仕掛けられているという情報を聞いたそうだ。同様の理由で駅も危険だという話だ。最も安全なのはこの街で一番大きく頑丈で、破壊される心配のない建物――つまりは北武デパートというわけだ。

 爆弾が店内に仕掛けられている可能性を指摘したが、常に利用客のいるデパートに爆弾を仕掛けられるはずがないと主張された。

 理にかなっているようだが間違った考えだ。事実、爆弾は設置されているのだから。

 情報が何らかの方法でコントロールされている。

 こんなことができるのはキリィぐらいだ。

 自転車に乗りながらスマホを操作する。時刻は十二時二十分。聞き込みをして時間をロスしてしまった。北武デパートが視界に入った。

 SNSのアプリに目がとまった。そういえば、爆弾を組み立てていた江梨がしきりに訴えたアカウントがあった。たしか「冨松市殺人事件情報」という名前だ。

 事件に関する情報を随時コメントしていたが、その中には推測も混じっていた。間違った情報を提供している可能性も十分にある。誤情報を鵜呑みにした人々が現在の状況を招いたのかもしれない。

 アカウントを検索し、フォローする。

 タイムラインにコメントが並んだ。どんどん更新され、コメントが追加されてゆく。

 画面をスクロールさせ、事件発生時のコメントから現在までのコメントを、流すように閲覧する。


〝爆発音を聞きましたか? 冨松高校の方面です。付近の住民は至急非難を〟

〝冨松市ホームページが改ざんされ、爆破予告が表示されました。本日午後一時に冨松市を爆破するようです。リンク貼ります〟

〝爆弾はどこに仕掛けられているかわかりません。冨松市を爆破するといっても、犯人には限界があるはずです。つまり、街の要所を犯人は狙うでしょう。最も危険なのは駅です。市外に逃げようと、ごったがえしたホームは格好の的です〟

〝街の外に逃げようとする心理は犯人に読まれているでしょう。駅だけでなく、橋や道路にも爆弾が仕掛けられているかもしれません〟

〝最新情報を入手しました。さきほどの爆発ですが、不審車に爆弾が仕掛けられていたそうです。道路に怪しい車は停まっていませんか?〟

〝皆様、冷静に行動しましょう。指定された避難場所は危険です。情報が公開されているため、犯人が知らないはずがありません。避難に適した場所は、爆発に耐えうる頑丈な建物です〟

〝常に人が出入りしていれば、犯人は爆弾を設置できないはずです。私は北武デパートに避難します。あそこは年中無休で常に人が入っているので、爆弾を仕掛けられる可能性は極めて低いです。また、市内で最も大きい建物なので、倒壊の心配はないでしょう〟

〝デパートの中に逃げるのが最も安全です。私はもうデパートに入るところです。駅の交番が近くにあるためか、警察が目を光らせてくれています。爆発の時刻は迫っています。皆様、迅速に避難を〟


 このあとにもデパートへの避難を促すコメントが続く。

 江梨がこのアカウントを見せた理由がようやくわかった。このアカウントはキリィが作ったものだ。SNSを悪用して情報操作を行い、市民を誘導している。爆弾を仕掛けたデパート内に市民を追いこんでいる。

 情報は引用されることによって拡散され、爆発的なスピードで市民に浸透する。

 それらの情報は友達や家族のネットワークを介して伝わる。たとえスマホを持っていなくても、電話や口頭で情報が伝えられる。人と人とのつながりが、最悪の悪循環を巻き起こす。ひとつのアカウントのコメントが、みんなのコメントになり、ぐるりと巡って誰の情報かわからなくなり、それがみんなの意志になる。

 数日前からアカウントを作成し、良心的なコメントをしていたのは、市民の信頼を得るためだ。だから、今のコメントも信用される。市民は誘導されているとは知らずに、デパートに避難していく。

 コメントはさらに更新されてゆく。しかし、事件開始時にキリィはどうやってコメントを投稿したのだろうか。いや、キリィのことだ。事前にテキストデータを作成し、定期的に投稿するように仕組んだのだ。キリィにとっては簡単なことだろう。

 江梨はSNSを犯罪に利用することを、僕に示してくれていたのだ。江梨は好きで那月に協力していたわけではないのだ。

 那月は市民を誘導し、デパート内に人を集中させたのちに、爆弾を爆発させるつもりだろう。

では、冨松市を爆破するというのは嘘だったのだろうか。

 記憶をたどる。僕は亜里沙がデパートに下見に行ったことは知っているが、他の場所の下見については聞いていない。亜里沙が言わなかっただけだと思っていたが、そうではなく、他の場所に設置する予定は最初からなかったのかもしれない。

 そもそも僕は、街を爆破するというのはあまりにも突飛で非現実的だと考えていた。

 事実、無理がある。それほどの火薬を用意し、爆弾を設置するなど不可能だ。いくら協力者がいたとしても――しかも、協力者はひとりだけだ。

 那月は自分の計画に無理があると考えた。いや、諭されたのかもしれない。たとえば、知美あたりに。

 計画は練り直された。街全体を爆破しなくても、人口を一点に集中させ、そこを狙えば効率的に殺戮を行える。したがって、爆弾を設置するのは一箇所でいい。

 恐ろしい犯罪計画だ。那月だけじゃなく知美やキリィ、亜里沙も共謀したのだろう。

 僕の考えはおそらく的を射ている。那月がサンライズマンションの屋上で待っているのは、デパート爆破の瞬間を特等席で見るためだろうから。

 時刻は十二時三十分。

 僕はようやく駅前にたどりついた。


       5


 正面に駅。右手にはサンライズマンション。左手には北武デパートが見える。

 マンションを一瞥したあと、僕はデパートに向かった。那月に何をされるかわからないが、数百人の命が犠牲になるかもしれない。防げるのは僕だけだ。警察は人質を取られていて、自由に動けないはずだ。

 デパートの前は人でごったがえしていた。押し合いながら店内に入ってゆく。途中で転んでしまった人が、みんなに踏みつけられていた。

 怒号が聞こえ、子供の泣き声が響いている。

 路上駐車など気にせず、デパート周辺に車を乗り付け、駆け込んでゆく。

 完全なパニック状態だ。

 警察は群衆を取り囲むようにパトカーを配置していた。警察もデパートに爆弾が仕掛けられていることは勘付いているはずだ。しかし、動かない。ただ周囲をしきりに見渡しているだけだ。犯人を捜しているのだろうが、群衆を止めようとはしない。やはり那月の脅迫が効いているのだ。

 僕は自転車を乗り捨て、デパート前に走った。すぐに人ごみにもまれる。肩にあたり、はじかれそうになる。身体が回復していないので、俊敏な動きなどできるはずもない。罵倒を浴びせられ、もみくちゃにされながら、僕は叫んだ。

「これは犯人の罠だ! 爆弾はデパートに中にある! 街中に仕掛けたっていうのは嘘なんだ! デパートには入るな!」

 パニック状態の群衆は聞く耳を持たない。それでも僕は叫び続け、しまいには泣きわめいた。僕の努力は徒労に終わり、ただの障害物としてはじき飛ばされて地面に転がった。

「みんな死ぬぞ!」

 僕はかれた声で叫んだが、その声は喧噪でかき消えた。

 僕は思いきり地を叩いた。

 時刻を確認すると、十二時四十五分だった。

 爆発まで残り十五分。

 痛む身体をなんとか引き上げ、マンションへと走り出した。

 八階建ての新しい建物。屋上に那月がいる。

 もしかしたら、那月は爆弾を止める方法を知っているかもしれない。

 マンションの入口で、手に持ったスマホを落とした。振り返り、反射的に拾う。顔をあげると、ひとりの警察官と目が合った。警官はすぐに目をそらし、無線機を口にあて何かを話しはじめた。

 道路をはさんで、こちらをちらちらとうかがっている。

 僕は全速力で階段を駆け上がる。

 しまった。警察に目をつけられた。デパート前で、犯人しか知りえない情報を口走ったのが原因だ。

 エレベーターを待つ時間は危険だと判断し、階段を駆け上がった。

 下から階段を上がる足音が聞こえる。

 あせりを感じながらも、ひたすら上に向かう。

 僕を犯人か犯人の協力者だと思っているのだ。すぐに捕まえないのは、那月が署長の息子を人質にとっていて、むやみに行動できないからだ。僕が犯人であるという確証を得た瞬間に、取り押さえるつもりだろう。

 屋上への扉に着いた。外された南京錠が床に落ちている。

 僕は扉を開いた。

「遅かったじゃない。爆発まで残り十分よ」

 那月は振り返り、そう言った。

 転落防止用の柵に手をかけ、もう片方の手にはスマホを持っている。

 僕は歩み寄る。呼吸は乱れている。足も限界だ。

「那月、もうやめよう。これ以上人を殺すのは――」

 僕の顔の横をナイフがかすめた。

 那月がナイフを放ったのだ。

 僕は後ろを見た。

 開け放たれたドアの向こうで警官が倒れていた。

 さきほど僕の様子をうかがっていた警官だった。

 ナイフがのどに突き刺さっている。

 死んでしまったに違いない。

「警察は邪魔するなって言ったのに」

 スマホを操りながら、那月は言った。

 僕が双方を見比べているうちに、遠くで花火が上がったような音が聞こえた。

 しかし、それが花火でないことはわかっていた。

 南方で煙が上がっている。

 あっちの方角は、たしか――。

「警察署長の息子に生まれたのが運のつきだったわね。私の家が燃えちゃうのが残念だわ」

「嘘だ……」

 僕はぼう然とつぶやいた。

「嘘なもんですか。ちゃんとスイッチ押したんだから」那月はスマホを眼前に掲げた。「キリィがアプリを作ったのよ。ボタンをタップすれば、自宅のパソコンに電波が送信され、爆弾を起爆。便利な世の中よね」

 僕は無意識に首を振っていた。僕が救うこともできたはずだ。しかし、僕はそうしなかった。見捨てて、那月を追ってしまった。

「警察につけられたのは仕方がないわ。私だってこんな場所で眺めてるから、マークされていただろうし。まだ切り札があるから大丈夫よ。運が良ければ逃げきれるでしょ」

 那月は手招きをする。

「何ぼうっと突っ立ってるのよ。こっちに来なさいよ。デパートに群がる無能な市民がよく見えるわよ。でも、こんなにうまくいくとは思わなかったわ。SNSで情報を流すだけで市民を誘導できるとはね。いかに大衆が大衆に依存しているかを、再認識させられたわ。ほら、見てよ。蟻みたいじゃない?」

 心身ともに疲れ果て、屍のように那月のほうに進む。

「やっぱり爆弾は全てデパート内に仕掛けたんだね」

「そうよ。ああ、きちんと言っていなかったわね。街を爆破するという予告はブラフで、デパートに誘い込むための罠。最初は本気で街中に、爆弾仕掛けてやろうと思ってたんだけど、無理があったわね。デパートに仕掛けた爆弾は計二十四個。一階から八階の各フロアに三つずつね」

「爆弾で倒壊させるつもりなのか」

「ビルの爆破解体みたいに? そうするのが理想だったんだけど、そこまでの威力は実現できなかったわ。でも、人が死ぬには十分よ。爆発に巻き込まれない場合も、火災で焼け死ぬ。出入口が瓦礫で塞がるように爆弾を設置したから、逃げることもできないわ」

 僕は那月の目を見つめた。

「まだすこしだけ時間はある。爆弾を止めることはできないのか」

 那月の表情が固まった。

「……止める?」

 那月は怒っていない。なぜか困惑している。

「午後一時に爆発するように設定されてるんじゃないのか」

 ああ、と那月は得心した。

「遠隔操作で爆破するのよ。さっきのアプリを使って」

「え?」

「時限爆弾にしちゃうと、何かトラブルが起きたときに対応できないじゃない。たとえば、警察がデパート外に市民を誘導しはじめた場合とかね。でも、一番の理由はそれじゃないわ」

 那月は凶悪な笑みを浮かべた。

「私が爆破ボタンを押すためよ」

 那月らしい考えだ。しかし、おかげで希望がわいた。

「やめようよ。そんなに人を殺しても意味なんかないよ。ボタンを押したら、君の人生は本当におしまいだ」

「じゃあ、どうしろっていうのよ。警察に自首でもしろっていうの? 確実に死刑だと思うけど」

「それは――」

「もうやるしかないのよ。やって歴史に名を残すのよ。高校生が何百人もの人間を殺したっていう伝説を作るのよ。

 永遠に語り継がれるであろう狂気を示すのよ。唾棄すべき日常を粉々に爆破してやるのよ。そして血みどろの混沌の世界で笑うの。それが勝者よ。支配者よ。大量の人間を殺害することで、私は真の意味で実感するでしょう。私がまぎれもなく生きてるってことを」

 那月の狂気が空間を支配してゆく。逃れることはできない。

「そしてこれは生き腐れのあなたの最後のチャンスでもある。卒業試験ってやつよ」

 那月はスマートフォンを差し出した。

「私と一緒にスイッチを押しなさい」

 画面には赤いボタンが表示されていた。これをたたくだけで爆弾が爆発し、市民が殺害されるのか……。

 時刻も表示されている。十二時五十七分。秒数のカウントが上昇してゆく。

 もう時間はないのだ。

 那月はスマホを左手に持ち替え、リモコンのようにデパートの方向に向けた。

 僕を誘うように右手をやわらかく開く。

 僕は那月の左隣に佇み、顔を眺めた。

 那月はくしゃっと笑った。

 ――何でこんなときにそんな風に笑うんだよ。

 手のひらをわずかに動かす。

 その指は細く、何人もの人間を殺した手には見えなかった。

 僕は右手を那月の手に近づける。

 そのために身を寄せる。

 肩と肩が触れ合う。

 那月はそっと手を重ねた。

 那月の手は暖かかった。

 人差し指をからめるようにして、ゆっくり下してゆく。

 午後一時まであと一分を切った。

 生き腐れなんてどうでもいい。

 自分のことなんてどうでもいい。

 じゃあ何を望むのか。

 僕が望むことはひとつだけだ。

 そのためにはどんな犠牲を払ってもいいと思った。

 どんなことをしてもいいと思った。

 それ以上に大切なことがほかにどこにあるというのか。

 環のよろこぶ顔以上に大切なことが。

 僕はもう那月を裏切りたくなかった。

 那月の心の底からの笑顔が見たい、そう思った。

 目を合わせ、うなずく。

 僕らは爆弾のスイッチを押した。


       6


 北武デパートは変わらずそこに鎮座したままだった。

 爆発は起こらない。

 那月は慌てはじめた。スマホのボタンを何度も押し、デパートに目をやる。

「どうして……」

 那月の背負ったリュックから電子音が鳴りはじめた。

 ピー、と高く長く響く。

 蒼白の顔で那月は自分のリュックを見やる。

「こっちの爆弾のボタンは押してないわよ。何で……」

 ――こっちの爆弾?

「リュックに爆弾が入っているのか」

「そうよ」

 リュックを下ろそうと肩ひもを外そうとする。慌てすぎてうまくいかない。

「これが切り札だったのよ。警察に囲まれたときに、爆破すると脅して切り抜けるために――」

 人格が交代した。ルナだった。

「謎は僕が解決しよう。まずデパートに設置した爆弾は、電波に反応しないように江梨が細工した。そしてリュックに入った爆弾が、デパート爆破のスイッチで起動するように周波数を合わせた。爆発は六十秒後。

 なぜ細工がばれなかったかというと、江梨の爆弾を作った記憶からは、専門知識がない限り、細工したことは読み取れないからだ。また言語表現に乏しく、思考内容もわからない。キリィのトラップと同じ要領だね。

 江梨は未曽有の殺人事件を自らの死をもって終わらせようとした。なぜ爆破を六十秒後にしたのかは君が推理したまえ」

 ルナは早口でまくしたてた。

 六十秒って……。あと三十秒ぐらいしか残ってないんじゃないのか。

 リュックが爆発したら環の命は――。

「誠君、逃げて!」

 叫んだのは綾子だった。

 リュックのひもを両手でしっかりと持ち、あとずさる。

 僕を逃がすために爆発の猶予を……。

 でも、環を置いて逃げられるわけがない。

「リュックを投げ捨てるんだ!」

 僕は叫んだ。綾子は首を横にふった。

「逃げて……」

 涙声でそう言った。

 僕が一歩近寄ると、綾子は一歩後退する。

「綾子、嘘だろ?」

 唐突に綾子は僕に飛びかかってきた。

 両手を回し抱きついてくる。

 これは綾子じゃない。

 これは――。

「やっと死ねますね、誠君」

 栞は耳元でそう言った。

 振りほどこうとしても、栞の腕は万力のように僕を閉めつける。

 逃れられない。

 時間がない。

「誰か助け――」

 爆音とともに視界が消えた。


 前がよく見えない。視界が赤い。血のせいか。

 地面に頭が当たっている感触がある。それ以外の感触はない。何もない。

 向こうに何か転がっている。

 環? あれは、環の下半身だ。血まみれのジーンズをはいている。

 上半身は見当たらない。

 ずずずずず。

 音が聞こえる。頭上から聞こえる。

 ずずずずず。

 頭上より近い。頭の中で鳴っている感じだ。

 ずずずずず。

 なにかをすする音なのだろうか。

 ずずずずず。

 僕は笑った。口の感覚はなかった。

 ずずずずず。

 ココロだ。死体を見つけて人格交代したのだ。

 ずずずずず。

 そして僕の脳を啜っている。

 ずずずずず。

 上半身だけのココロが、僕の脳を貪る様子が、なぜか鮮明にイメージされた。

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