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【ショートショート】エンピツくんとケシゴムくん

「やあエンピツくん、元気かい?」

「元気だよ。ケシゴムくん」

 主人がいなくなったところを見はからって、エンピツくんとケシゴムくんは、ひそひそとおはなしをはじめた。

「今日もぼくたちは大活躍だったね」

「うん、そうだね。ぼくは数えきれないくらいの字を書いたよ」

「そしてぼくは、間違った部分を真っ白になるようにきれいに消した。絶妙なコンビネーションだね」

「そうだね。絶妙なコンビネーションだ」

 ケシゴムくんは筆箱の外に声がもれないように、くすくすと静かに笑った。

 けれど、エンピツくんはだまったままだった。

 いつもとようすの違うエンピツくんを見て、ケシゴムくんは心配に思った。

「どうしたんだい、エンピツくん。気分がすぐれないようじゃないか。おなかでも壊したのかい?」

「いや、そういうわけじゃないんだ……」

「だったら、何だっていうんだい? 理由を聞かせておくれよ。きみの力になりたいんだ。ぼくらは友達じゃないか」

 エンピツくんは、つばをごくりと飲み、意を決してこう言った。

「じゃあ、言うよ……。これはぼくだけじゃなく、きみにも言えることなんだけれど……」

「何だい? もったいぶらずに、早く言っておくれよ」

「ぼくたちさ……、小ちゃくなってないかい?」

 空気が凍り、一瞬、時が止まったようだった。

 ケシゴムくんは、驚いて開いた口がふさがらなかった。

 エンピツくんはたんたんと続けた。

「ぼくらってさ、ご主人様にはじめて使われたときは、今より二倍……いや、三倍くらいの大きさじゃなかったかい? それがこんなに小ちゃくなってしまったんだよ。これが意味することがわかるかい、ケシゴムくん?」

「小さすぎて使いものにならなくなって、最後には……捨てられる!」

 そのとき、筆箱のふたが開けられれた。

 文房具の主人は、使い込んで短くなってしまったエンピツくんをとりあげた。

「エンピツくーん!」

 ケシゴムくんは胸中で絶叫した。

 エンピツくんはもうすべてを悟ったのか、顔に安らかな笑みを浮かべていた。

「もうこのエンピツ、短くなったから捨てちゃおう。今度、新しいのをママに買ってもらえばいいや」

 主人はそう言うと、エンピツくんをぽいっとゴミ箱に投げ捨てた。

 ケシゴムくんは、胸中で絶叫した。

 主人は筆箱をぱたりと閉じた。

 ケシゴムくんは、消しカスでできた涙を流した。

「ああ、エンピツくんが死んでしまった。死んでしまったんだ」

 ケシゴムくんは夜遅くまで泣き続けた。

 親友だったエンピツくんが、いとも簡単にあの世へ葬り去られてしまったのだ。

 エンピツくんとのさまざまな思い出が、ケシゴムくんの頭の中でひろがった。

 とても楽しい日々だった。

 悲しみにくれるなかで、恐怖が舞い戻ってきた。

 小さくなった自分が捨てられるのは、もう時間の問題だったからだ。

 自分もエンピツくんと同じように、やすやすと捨てられてしまうのだろうか。

 ケシゴムくんは決心した。

 ――この筆箱をこじ開けて、逃げ出す。

 悲しみに浸っている場合ではない。

 エンピツくんの分まで、強く生きなくてはならない。

 ケシゴムくんは立ち上がった。

 いや、立ち上がろうとした。

 けれどケシゴムくんは、いくらもがいても体を動かすことができなかった。

「何だこれは? どうして体が動かないんだ?」

 ケシゴムくんは後ろを振り返った。

 すると、そこには透き通った青色の板のようなものがあった。

 その板が体にぴたりと張り付き、ケシゴムくんの動きを封じていたのだ。

「き、きみは……ジョウギくん!」

 ケシゴムくんは驚きのあまり叫んだ。

 ジョウギくんはにやりと笑った。

「ぼくたちはいわば運命共同体さ。同じ文房具として抜け駆けはゆるさない」

 ケシゴムくんはじたばたと手足を動かしたが、いっこうに体がはがれる気配がない。

 ケシゴムくんはプラスチック製だったため、同じプラスチック製のジョウギくんによくはりついていたのだった。

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